ドイツの古典学者ゲー・ハイム教授なる人物によってキプロス島のパレオ・ミリッソで、紀元前6世紀に生きたビリティスという名の女流詩人の墳が発見されて、その遺骸と共に地下の墳墓に刻まれていた彼女の146に及ぶ歌も発見されたという。それを翻訳したとして1894年にフランスの象徴派詩人ピエール・ルイス(1870年-1925)によって発表たされのが「ビリティスの歌」である。ところがこれは実は全てルイスの作り話で、ルイス自身の作品だったというからただごとではない。この“事件”はいかにもフランス人らしいと言うべきか。これを信じた古典学の権威者たちが真面目な論文を書いて大恥をかいたというのもただごとではない。ビリティスの歌はドビュッシーによってそのうちの3篇からパントマイムと詩の朗読の付随音楽として2本のフルート、2台のハープとチェレスタという編成で作曲された。(チェレスタの譜は紛失し、P.ブーレーズが復元した)。ドビュッシーは1914年にこれをピアノ連弾のために書き直し、「6つの古代碑銘」と言う題名を付けた。そして私が演奏する楽譜はカール・レンスキーがフルートとピアノに編曲したものである。もちろんドビュッシーはピエール・ルイスの作り話を知っていただろう。ドビュッシーとピエール・ルイスは親しい間柄であったというから。 私は20日にみなとみらいでドビュッシーのビリティスを吹く。この曲は35年くらい前に吹いたのが最初で、その後10年位い経って吹き、今回が3回目である。3度目の正直だ!この間、曲中の La danseuse aux crotales (クロタルを持つ舞姫のために)のクロタルとは一体何であるのか、ずっと調べていた。カスタネットを持つ舞姫のために、と訳されているのを見かけるが、しかしフランス語のcrotalesはガラガラヘビのことなのである。先日、上林 裕子さんと会ったときにこの話しをすると、その場でパリに居るフランス人の友人に電話をかけて聞いてくださった。最初の答えは「非常に危険なヘビ」であったが、一時間以上経った頃にその友人から電話が返って来て、それはヘビではなくて打楽器である、と教えてくれたのである。ずっと調べていたらしく感激した。その後の調べで「直径数cmの小さな一対のフィンガーシンバルを、曲げた針金かパンばさみのようなものの先に取り付け、片手で演奏できるようにしたもので古代ギリシャ・ローマ時代にさかのぼる楽器である、という事も判った。ルーブル美術館の1階のセクション38のギリシャのテラコッタ置物群のなかにDanseuse aux crotalesがある。その両手には、たしかにフィンガーシンバルのようなものが見える。もしかしたらガラガラヘビの尾がだす音と関係があるのかもしれない。そして更に「ビリティスの歌」の日本語訳が出版されていることも判った!(これは山下 博央さんが見つけてくれた)。私は即、沓掛 良彦の訳本「ビリティスの歌」を取り寄せた。まずは最後の「訳者解説」のところを貪り読む。これは非常に面白い本だ!時間を掛けてじっくり読もう。レプリカに興味がある人はここをご覧下さい。
■ 2013年4月13日(土) ピアニストの幅田 詠里子さん 私は日本アンサンブル協会が主催する「日本アンサンブルコンクール」の審査員をしているが、昨年の8月に二俣川のサンハートホールで行われた第一回サンハート・アンサンブル・オーディションでの予選でヴァイオリンの伴奏(伴奏という言葉は好きではないけれど)で初めて幅田さんの演奏を聴いた。私は幅田さんの音楽的なセンス、無理なく綺麗に響かせる奏法に惚れ込んで、審査が終わってから即主催者の川崎恵子氏にお願いしてコンタクトをとってもらい、来る4月20日(土)に横浜のみなとみらいで行われる第5回日本アンサンブルフェスティヴァルでの共演をお願いしてしまったのである。幅田さんは東京音楽大学で勉強をされたあとウィーンへ留学、ウィーン国立音楽大学室内楽科ポスト・グラデュエイト・コースを修了している。ミュージック・アカデミー in みやざきの公式伴奏者を務めている。 その幅田さんと演奏する曲は、フルートとピアの右手が交互にメロディーを受け持つ、いわゆる「伴奏」ではなく、お互いに溌剌と音楽を表現するフンメルのソナタを選んだのである。まだまだ本番には時間が有る今年の1月20日に初めて練習をしてもらった。その時、私が思っていたとおりの演奏をしてくれる幅田さんに、改めて惚れ直してしまったのである。 斉藤義孝氏の設計による我が家のピアノを実に気持ちよく響かせてくれた(調律は勿論私の手によるヴェルクマイスターの第3番である)。そして今日は2回目の練習であった。曲目は、今年はドビュッシー生誕150年にあたるので、フンメルとは対照的ともいえるドビュッシーのビリティスも演奏する。幅田さんとは秋にも数カ所で演奏をお願いしている。彼女が大好きだというシューベルトの「しぼめる花の主題による序奏と変奏曲」、ライネッケの「ウンディーネ」、上林 裕子の「オルシアの物語」などが予定されている。 トシをとると色々やっかいなことがでてくる。もともと肺活量の少ない私が1999年の暮れにやられた心筋梗塞のために更に足りなくなり(現在2200ccくらい)、指は油が切れたようになったりと問題山積だ。しかし負けてはいられない。自分に対する戒めである「重ねたトシと練習量は正比例する」を念頭に吹きまくる。音に関しては笛吹き60年目にして、やっと「これかな?」という感じをつかみかけている。20日は良い演奏にしたい! |
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